日本の政治史には、内閣の支持率が大きく低迷する瞬間が何度もありました。支持率の低下は、政策の失敗やスキャンダル、経済の停滞など様々な要因によって引き起こされます。以下に、歴代内閣の中でも特に支持率が低迷した内閣をランキング形式で紹介します。
また、歴代内閣の支持率はNHKの調査結果を採用しています。
※関連記事:歴代内閣総理大臣と当時の時代背景(年表)
歴代内閣の最低支持率ランキング
1位. 森喜朗内閣(7%)
内閣発足の経緯
前任の小渕恵三首相が脳梗塞で緊急入院して執務不可能となる。
当時の自民党有力議員5人(森喜朗本人、青木幹雄、村上正邦、野中広務、亀井静香)が急遽、赤坂プリンスホテルで会合し、森内閣の組閣を決定。マスコミからは五人組による不透明な決定が問題視される。
急遽の組閣だったため、前任の閣僚を全員再任。いわゆる、居抜き内閣。
最高支持率
39%:2000年4月調査時点
最低支持率
7%:2001年4月調査時点
支持率低下の理由
森喜朗首相は数々の失言や不祥事に見舞われ、その結果、国民の信頼を大きく失った。以下、スキャンダルを列挙。
2位. 麻生太郎内閣(15%)
内閣発足の経緯
内閣総理大臣福田康夫の辞任にともない組閣。衆議院は与党が過半数を占めていたものの、参議院は野党が過半数を占めるというねじれ国会からのスタート。
最高支持率
49%:2008年11月調査時点
最低支持率
15%:2009年9月調査時点
支持率低下の理由
世界金融危機の影響を受け、日本経済の停滞が続く中で政策の効果が見られず、国民の不満が高まる。また、総理自身の発言や行動に対する批判も多く、支持率低下につながる。
3位.菅直人内閣(16%)
内閣発足の経緯
鳩山総理の退陣表明を受け、民主党代表選挙への出馬を表明。小沢派との総裁選挙に勝ち、内閣総理大臣に就任。反小沢派を重要閣僚に据えて組閣。
最高支持率
65%:2010年9月調査時点
最低支持率
16%:2011年7月調査時点
支持率低下の理由
発足当初は「脱小沢」の動きで支持率が高かったが、消費税増税案を打ち出したため支持率が急落。参議院で議席の過半数獲得に失敗してねじれ国会となる。
2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故への対応が不十分であると批判。特に、初動の遅れや情報の不透明さが国民の不満を招き、支持率が急低下。
4位.福田康夫内閣(20%)
内閣発足の経緯
森内閣、小泉内閣での内閣官房長官の職務遂行が評価され、知名度を高める。第一次安倍政権の突然の辞職を受けて自民党総裁選に出馬、勝利。
最高支持率
58%:2007年10月調査時点
最低支持率
20%:2008年9月調査時点
支持率低下の理由
政治資金や年金記録問題、防衛省の不祥事などの問題が次々と発生。民主党との大連立構想も失敗。内閣として力を入れていた北海道洞爺湖サミット後も支持率が上がらなかった。
ただし、辞任は急な事態であり、記者会見では急な辞任への批判を受けた。
5位.野田佳彦内閣(20%)
内閣発足の経緯
菅直人内閣の辞職を受けて、民主党総裁選に出馬。最多5名による選挙で反小沢票を集めて勝利、内閣総理大臣に就任。3代目の民主党中心の内閣。
最高支持率
60%:2011年9月調査時点
最低支持率
20%:2012年12月調査時点
支持率低下の理由
消費税増税、普天間基地問題の解決失敗による世論の反発と、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加による農業団体からの反発を受けて支持率が急落。さらに閣僚の不祥事が相次いだ。
6位. 小渕恵三内閣(20%)
内閣発足の経緯
橋本内閣が参議院選挙で大敗し総辞職。その後を受けて組閣するも、参議院で野党に過半数の議席を取られるというねじれ状態での発足。ニューヨーク・タイムズ紙に「冷めたピザ」と形容される。
最高支持率
53%:1999年8月調査時点
最低支持率
20%:1998年10月調査時点
支持率低下の理由
参議院の過半数割れに対して、自由党との連立で政権運営の安定を目指す。
赤国債発行による公共事業の推進で批判を集める。経済は徐々に安定しはじめたが、地域振興券支給が「バラマキ政策」と批判を浴び、派遣社員のワーキングプア問題も発生。
自由党との連立解消が決定した日に脳梗塞を発症、執務継続不可能となり総辞職。
7位.岸田文雄内閣(20%)
内閣発足の経緯
前任の菅内閣退陣にともない、河野太郎、高市早苗、野田聖子との四者の総裁選に勝ち、内閣総理大臣に就任。
最高支持率
59%:2022年6月調査時点
最低支持率
20%:2024年9月調査時点
支持率低下の理由
選挙期間中の安倍元総理の銃撃事件後の国葬問題、旧統一教会との関係疑惑問題で支持率が大きく低下。内閣改造後も支持率は戻らず、新型コロナウイルスの流行が支持率低下に拍車をかけた。
さらに自民党派閥パーティの政治資金規正法違反問題に関して2024年6月に改正政治資金規正法が成立したものの、焦点だった国会議員の責任連座制はとられず。国民の期待値を下回ると判断されて支持率はさらに低下。
8位.鳩山由紀夫内閣(21%)
内閣発足の経緯
麻生内閣の退陣を受けて2009年に衆議院総選挙が行われ、所属する民主党が単独政党として史上最多の308議席を獲得。内閣総理大臣に就任。「政権交代」が流行語に選ばれ、米誌『タイム』でも「世界で最も影響力のある100人」リーダー部門で6位に選出されるなど、大きな期待を受けて政権スタート。
最高支持率
72%:2009年9月調査時点
最低支持率
21%:2010年5月調査時点
支持率低下の理由
脱官僚・政治主導を掲げ、普天間基地移設問題で「最低でも県外移設」、子ども手当、高速道路無償化を約束したものの、不完全な結果に終わる。さらに自身の偽装献金問題や幹事長・小沢一郎の政治とカネの問題で検察審査会より「起訴相当」の議決を受ける。
9位.第一次安倍晋三内閣(29%)
内閣発足の経緯
内閣官房長官を務めた小泉内閣の任期満了に伴う総裁選で、麻生太郎と谷垣禎一を大差で破り自由民主党総裁に選出、組閣する。54歳での総理大臣就任は戦後最年少で、初の戦後生まれの内閣総理大臣。
最高支持率
65%:2006年10月調査時点
最低支持率
29%:2007年8月調査時点
支持率低下の理由
郵政民営化法案への造反議員の復党を認めて支持率が大きく低下。柳沢厚労相の「女性は子を産む機械」発言とそれに対する首相としての対応や年金記録問題の解決スピードへの世論の不満が支持率低下に大きくつながった。
10位. 菅義偉内閣(29%)
内閣発足の経緯
安倍内閣退陣を受けて自民党総裁選挙に出馬、岸田文雄氏、石破茂氏に大差をつけて勝利し、組閣。国会議員職の世襲ではない自民党総裁は森喜朗元首相以来で、選挙地盤を世襲していない自民党総裁としては海部俊樹元首相以来。
最高支持率
62%:2020年9月調査時点
最低支持率
29%:2021年8月調査時点
支持率低下の理由
新型コロナウイルスの流行により、推進してきた観光支援策「Go To トラベル」事業が全国一斉停止に追い込まれる。ワクチン接種対応の評価は高かったが、流行を止められなかったことへの批判で支持率は低下した。
※関連記事:内閣不信任決議:不信任決議が可決された日本の歴代内閣4つとその経緯を紹介
歴代内閣の支持率一覧
歴代 | 氏名 | 支持率 | 在職期間 | 在職日数 | |||
最高 | 最低 | ||||||
支持率(%) | 時期 | 支持率(%) | 時期 | ||||
第84代 | 小渕 恵三 | 53 | 1999年8月 | 20 | 1998年10月 | 1998年7月30日~2000年4月5日 | 616 |
第85代~86代 | 森 喜朗 | 39 | 2000年4月 | 7 | 2001年4月 | 2000年4月5日~2001年4月26日 | 387 |
第87代~89代 | 小泉 純一郎 | 85 | 2001年6月 | 39 | 2002年6月 | 2001年4月26日~2006年9月26日 | 1,980 |
第90代 | 安倍 晋三(第一次) | 65 | 2006年10月 | 29 | 2007年8月 | 2006年9月26日~2007年9月26日 | 366 |
第91代 | 福田 康夫 | 58 | 2007年10月 | 20 | 2008年9月 | 2007年9月26日~2008年9月24日 | 365 |
第92代 | 麻生 太郎 | 49 | 2008年11月 | 15 | 2009年9月 | 2008年9月24日~2009年9月16日 | 358 |
第93代 | 鳩山 由紀夫 | 72 | 2009年9月 | 21 | 2010年5月 | 2009年9月16日~2010年6月8日 | 266 |
第94代 | 菅 直人 | 65 | 2010年9月 | 16 | 2011月7月 | 2010年6月8日~2011年9月2日 | 452 |
第95代 | 野田 佳彦 | 60 | 2011年9月 | 20 | 2012年12月 | 2011年9月2日~2012年12月26日 | 482 |
第96代~98代 | 安倍 晋三(第二次) | 66 | 2013年3月 | 34 | 2020年9月 | 2012年12月26日~2020年9月16日 | 2,822 |
第99代 | 菅 義偉 | 62 | 2020年9月 | 29 | 2021年8月 | 2020年9月16日~2021年10月4日 | 384 |
第100代~101代 | 岸田 文雄 | 59 | 2022年6月 | 21 | 2024年6月 | 2021年10月4日~ | (現職) |
内閣の支持率推移の状況
内閣の支持率は上下するのが常ですが、変化の仕方には一定のリズムがあります。
内閣発足時が最高支持率になる
まず、ほとんどの内閣では内閣発足直後の世論調査での支持率が最高支持率になります。
上記の各内閣での最高支持率・最低支持率の表でも、大抵の内閣では最高支持率が組閣から2か月以内でした。
内閣総辞職時が最低支持率になる
同様に、ほとんどの内閣では辞職時の支持率が最低支持率になります。
世間では「総辞職」の話題が大きくなり、所属政党内でも「〇〇降ろし」(〇〇は首相名)が言われるようになります。その雰囲気のなか、世論調査で「支持する」と回答する割合は下がるのが普通とされます。
小渕内閣と小泉内閣は例外
前述のように「最高支持率→内閣発足時」「最低支持率→内閣辞職時」という状況はよく見られますが、小渕内閣と小泉内閣は例外でした。
小渕内閣の最低支持率は発足から3か月後で、最高支持率は逆に発足から1年後でした。発足時はあまり支持されず、仕事ぶりをみて支持が拡大していったとも言えます。なお、小渕内閣は近年、経済や外交面での評価が高まっています。
また、小泉内閣は最高支持率が発足直後と定石どおりでしたが、その後が違いました。最低支持率を記録したのは発足から1年後で、その後4年以上も支持率50%台と高い水準で政権運営を行いました。
小泉内閣も仕事ぶりが世間から評価されていましたが、逆に近年では急激な規制改革のデメリットが指摘されています。
歴代内閣総理大臣の足跡がわかる本
歴代首相の功績や人柄についてくわしい本や政治に関する本を3冊紹介します。
『今だから言えること 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影』
歴代首相の人柄や裏話が書かれているシリーズです。
著者は元朝日新聞編集委員で政治評論家、ジャーナリストをしていた国正 武重氏です。
『湾岸戦争という転回点』(岩波書店)で日本記者クラブ賞を受賞し、『権力の病室―大平総理最期の14日間』(文藝春秋)、『後藤田正晴語り遺したいこと』(岩波書店)など、多数の著作があります。
小沢一郎氏・菅直人氏・鳩山一郎氏/由紀夫氏親子・田中角栄氏など↓
今だから言えること 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影
細川護煕氏・田中角栄氏・野田 佳彦氏など↓
今だから言えること2 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影 今だから言えること 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影
野田佳彦氏・安倍晋三氏・土井たか子氏・宇野宗佑氏など↓
今だから言えること3 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影 今だから言えること 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影
竹下登氏・宮澤喜一氏・加藤紘一氏など↓
今だから言えること4 「何故、伊東正義さんは、総理大臣のイスを蹴飛ばしたのか」 今だから言えること 歴代首相の素顔が語る、日本の光と影
出版社:ArsLonga
『増補新版 歴代首相物語』
伊藤博文氏から安倍晋三氏まで、主要な経歴・事績・エピソードを当時の国際情勢や政治状況をふまえて紹介してくれています。
増補新版 歴代首相物語 (ハンドブック・シリーズ)
出版社:新書館
『政治はなぜ失敗するのか』
これまでの人類の政治史から「政治が失敗してきた理由」を方法論的にから解説している本です。
著者は現代のアメリカ政治に危機感をいだいているようで、その方向にちょっと偏っている様子はありますが、面白いです。
政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出
出版社:飛鳥新社
まとめ
いかがでしょうか。
歴代内閣の支持率をランキング形式で紹介しました。
内閣発足時に最高支持率を記録し、内閣総辞職時に最低支持率を記録することが一般的ですが、小渕内閣と小泉内閣は例外で辞職時にも比較的高い支持率でした。
各内閣発足の経緯やスキャンダル、支持率低下の理由も合わせて紹介しています。
支持率低下は閣僚のスキャンダルや新型コロナウイルスの流行による影響が大きかったようです。
支持率の低迷は政権にとって大きな試練となりますが、その経験が次の政権でのリーダーシップや政策に生かされることも多いです。
※関連記事:歴代内閣総理大臣の在職日数ランキング(1~20位):在職日数の長い首相、短い首相
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