日本の国民審査制度は、最高裁判所裁判官に対する国民の信任投票です。この制度は、国民が裁判官の適格性を評価し、司法の透明性と独立性を確保する目的で設けられました。
国民審査は、衆議院議員総選挙と同時に行われ、裁判官に対して「罷免」を求めるかどうかを判断します。
本記事では、国民審査の目的や罷免の条件、これまでの結果についてくわしく解説します。
国民審査とは

国民審査は、日本国民が「最高裁判所裁判官」の適格性を審査する制度です。いわば、最高裁判所裁判官に対する信任投票です。
最高裁判所裁判官国民審査法に基づき、国民が直接裁判官に対して意見を表明できる仕組みとして設けられています。
投票用紙に「×」を記入することで、国民がその裁判官を罷免すべきかどうかを判断します。審査の結果、多数の「×」が付いた裁判官は罷免されます。
国民審査の目的
国民審査の目的は、主に以下の点です。
司法の独立と透明性の確保
国民審査は、最高裁判所の裁判官がその職務を適切に遂行しているかを国民が判断できる制度です。これにより、司法の独立性を保ちつつ、裁判官に対する監視機能を持たせることが目的とされています 。
国民の声を反映
国民審査は、国民が直接裁判官に対して意見を表明できる貴重な機会であり、司法に対する国民の信頼を向上させる役割を果たしています。この制度を通じて、国民は自らの意志を司法制度に反映させることができます 。
制度の改善促進
国民審査を実施することで、裁判官の職務に対する国民の理解を深めるとともに、裁判官の任務に対する意識を高める機会を提供します。これにより、制度全体の透明性と公正性が向上することが期待されます 。
三権分立の一環
国民審査は、立法・行政・司法の三権分立の一環として位置づけられ、司法権の行使に対する国民のチェック機能を持つ重要な制度とされています 。

なお、三権分立については以下の記事で詳しく解説しています。
三権分立とは:国会・内閣・裁判所の三権の相互作用や国民とのかかわりを解説
国民審査の対象となる裁判官
対象となる「最高裁判所裁判官」とは?
国民審査の対象は、「最高裁判所の裁判官」のみです。
最高裁判所には長官1名と14名の裁判官が在籍し、彼らは司法の最終判断を行う重要な役割を担っています。裁判官の任命は内閣が行いますが、任命後初めて行われる衆議院選挙の際に、国民審査にかけられることになります。
その後は10年ごとに再審査が行われます。
最高裁判所長官も審査の対象になります。
なお、最高裁判所長官の役割についてはいかのきじ
最高裁判所長官の役割と影響:国民審査、国会・内閣との関係、そして歴史に残る裁判事例(ロッキード事件など)
なぜ国民審査が必要なのか
最高裁判所裁判官の判断は、憲法解釈や法制度の方向性を左右するため非常に影響力が大きいです。
国民審査は、裁判官が偏った判断を行わないように、また国民の意見を司法に反映させるための民主的な仕組みとして重要です。
国民審査で裁判官が罷免される条件

罷免の条件と投票結果の仕組み
裁判官が罷免される条件は、投票者の過半数が「×」を記入した場合です。
この過半数というのは「投票総数」ではなく、「有効投票総数」の過半数を指します。つまり白票は罷免に影響を与えません。
罷免されると、その裁判官は職を辞し、後任が新たに任命されます。
罷免された裁判官はいるのか?
これまで、罷免された裁判官はいません。
審査は行われていますが、過半数が罷免に賛成するケースは一度も発生していないため、罷免例は存在しません。
過去最も罷免に近づいたのは下田武三氏です。投票者の15.17%から罷免希望が出ました。
下田氏は1972年の沖縄返還に際して「核つきでの返還やむなし」と発言して反発を招いていました。
国民審査はいつ行われるのか?
実施時期のタイミング
国民審査は、衆議院総選挙と同じ日に行われます。新たに任命された裁判官は、その初回の衆議院選挙時に国民審査の対象となり、その後10年ごとに審査が繰り返されます。
第二条(審査の期日) 審査は、各裁判官につき、その任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の期日に、これを行う。
最高裁判所裁判官国民審査法 第二条より引用
② 各裁判官については、最初の審査の期日から十年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の期日に、更に審査を行い、その後も、また同様とする。
例えば2024年は10月27日に行われました。
衆議院選挙と同時に行われる理由
国民審査を衆議院選挙と同日に行うことで、選挙の実施コストを抑えると同時に、多くの国民に参加を促すことが目的です。
しかし、選挙と同時に行われるため、国民審査そのものが注目されにくいという課題も指摘されています。
国民審査の流れと投票方法

投票用紙の記入方法
国民審査では、裁判官ごとに「罷免に賛成」なら「×」を記入し、何も記入しなければ「罷免に反対」とみなされます。
記入方法が簡単である一方、どの裁判官に対しても「×」を記入しないという選択肢を取る人も多いです。
「×」をつけるべきか迷ったときの判断基準
「×」をつけるべきか迷った場合、事前に公開されている裁判官の経歴や過去の判決を参考にすることが推奨されます。
また、新聞やインターネットでの評価も参考にしながら、自身の価値観に合った判断をすることが大切です。
「国民審査は意味がない」と言われる理由
国民審査に対する批判として、形式的で意味がないという意見があります。その理由は以下のとおりです。
情報不足
一般国民が裁判官について十分な情報を持っていないため、審査が実質的な評価に基づかないという指摘があります。
罷免のハードルが高い
裁判官を罷免するためには、投票者の過半数が「×」を付ける必要があり、結果的に裁判官が罷免されたことはなく、今後もほぼないのではと思われます。
弾劾裁判との違い
国民審査と似ている司法制度で弾劾裁判があります。弾劾裁判は、裁判官が職務上の不適切な行為などによって罷免される手続きで、国会の「裁判官弾劾裁判所」が裁定を下します。
一方で、国民審査は裁判官のパフォーマンスや姿勢について国民が判断し、信任投票の形で罷免を決める仕組みです。
弾劾裁判は具体的な法令違反や職務上の過失に基づきますが、国民審査はあくまで国民の信任に基づく制度です。
国民審査の課題と未来
投票率の低迷とその原因
国民審査の投票率は、衆議院選挙に比べて低い傾向にあります。主な原因としては、
- 審査そのものへの関心の低さ
- 裁判官の情報不足
- 罷免に至るハードルの高さ
が挙げられます。
より効果的な国民審査の在り方
国民審査を効果的にするためには以下のような対策が考えられます:
- 裁判官の情報公開を拡充し、国民が判断しやすい環境を整える
- 国民審査の意義を広く周知し、投票率の向上を図る
- インターネット投票の導入や、審査期間の柔軟化
これらの施策を通じて、国民審査がより実効性を持つ制度として機能することが期待されています。
Q&A: 国民審査に関する疑問を解決!
Q1. 国民審査とは何ですか?
A1. 国民審査は、日本国民が最高裁判所裁判官の適格性を審査する制度で、衆議院選挙と同時に実施されます。
Q2. 国民審査の対象となる裁判官は誰ですか?
A2. 審査対象は、最高裁判所裁判官のみです。任命後、初回の衆議院選挙時とその後10年ごとに審査が行われます。
Q3. 裁判官が罷免される条件は何ですか?
A3. 投票者の有効投票総数の過半数が「×」を記入した場合に罷免されます。ただし、これまで罷免例はありません。
Q4. 国民審査はいつ行われますか?
A4. 衆議院総選挙と同日に行われます。同日実施の理由はコスト削減と投票率向上が目的です。
Q5. 投票はどのように行われますか?
A5. 「罷免に賛成」の場合は裁判官名の上に「×」を記入し、何も書かない場合は「罷免に反対」とみなされます。
Q6. 国民審査の課題は何ですか?
A6. 主な課題は投票率の低迷と情報不足です。裁判官の経歴や過去の判決を事前に確認することが重要です。
まとめ
国民審査は、最高裁判所裁判官に対する国民の直接的な評価手段であり、司法の独立を保つための重要な制度です。
罷免の条件は有効投票の過半数が「×」を付けることですが、これまでに罷免された裁判官はいません。
また、国民審査は弾劾裁判とは異なり、国民による信任の形を取っています。この制度は、司法に対する国民の意見を反映させる大切な機会です。
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