日本の選挙制度は比例代表制と選挙区制の併用です。衆議院と参議院でその併用の仕方も異なっています。
この記事では、比例代表制と選挙区制の違いを解説し、衆議院と参議院それぞれの併用の状況を説明します。
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比例代表制と選挙区制の違い

比例代表制と選挙区制は、議員を選出するための2つの異なる選挙方式です。これらの制度は、国会議員選挙や地方選挙などで使われており、それぞれに特徴があります。
参考:
総務省 – 選挙の種類
NHK「【詳しく知る衆議院選挙】比例代表の議席はこう決まる」
比例代表制の特徴
比例代表制は、各政党の得票数に応じて議席が配分される制度です。
衆議院選挙では国全体を11のブロックに分け、参議院選挙では国全体を1つのブロックにして政党ごとに投票が行われ、得票率に応じて議席が配分されます。
政党名で投票する
比例代表制は「政党ごとの投票」なので、投票用紙には政党名を書いて投票します。

得票数に応じて選挙区ごとに2~3名ほどが当選します。
小政党に有利
多くの政党が一定の議席を得やすい仕組みで、少数政党や新興政党にもチャンスがあります。
この方式では、政党への支持がそのまま議席数に反映されやすく、少数派の意見も国会に反映される可能性が高くなります。
全国単位でも採用可能
日本では参議院の比例代表選挙で、全国を一つの選挙区とした「全国比例」が行われています。
選挙区制の特徴
選挙区制は、地域ごとに議員を選出する制度です。各選挙区で候補者個人に投票し、その選挙区で最も多くの票を得た候補者が当選します。
選挙区ごとに1人または複数の議員を選び、その選挙区の代表として議会に送り出します。
選挙区制には以下のような特徴があります。
地域代表が明確に決まる
選挙区ごとに有権者が候補者を選ぶため、地域の代表が明確に決まります。地方や地域の声が反映されやすいです。
比例代表制とは違い、投票用紙には「候補者名」を記載します。

大政党が有利
多くの選挙区では、1位になった候補者だけが当選する「小選挙区制」が用いられるため、比較的支持を集めやすい大政党が有利になる傾向があります。
個人候補が重視
比例代表制とは異なり、選挙区制では政党よりも個人の候補者が重視されることが多く、選挙区ごとの選挙活動が盛んです。
比例代表制と選挙区制の併用状況(衆議院と参議院)

日本では衆議院と参議院で異なる選挙制度が併用されています。この併用によって、選挙制度が多様な意見を反映しつつ、安定的な政権運営を図る役割を担っています。
それぞれの選挙制度と併用の意味について詳しく説明します。
参考:
Wikipedia – 小選挙区比例代表併用制
総務省「中選挙区制から小選挙区比例代表並立制へ」
時事ドットコム・「民・公連立」で飛び出した「小選挙区比例代表連用制」(フォーサイト-新潮社ニュースマガジン)
衆議院の選挙制度:小選挙区比例代表並立制
衆議院の選挙制度では、小選挙区制と比例代表制が併用されている「小選挙区比例代表並立制」が採用されています。
衆議院の小選挙区制
全国を289の小選挙区に分け、各選挙区から1人の候補者を選出します。有権者は候補者個人に投票し、最も多くの票を得た候補者が当選する「勝者総取り」の方式です。
地域ごとに代表を送り出す仕組みであり、地方の声を国政に反映させる効果があります。
衆議院の比例代表制
一方、比例代表制では、全国を11のブロックに分け、176議席が配分されます。
※関連記事:比例代表制を分かりやすく解説:メリット・デメリットやドント方式の仕組みを具体例を交えて説明します
政党が獲得した票数に応じて、政党ごとに議席が割り当てられ、各政党の候補者名簿に基づいて当選者が決まります。拘束名簿式が採用されており、政党が事前に決定した名簿順位に従って当選者が決定されます。
重複立候補が可能
2つの選挙制度を併用しているため、候補者は小選挙区と比例代表の両方に立候補することが可能です。
小選挙区で落選しても、比例代表で復活当選することができます。この仕組みは、候補者の当選機会を広げ、政党の戦略的な候補者配置を容易にします。
ただし、重複立候補を禁止する議論も国会で行われています。
参考:衆議院 – 衆議院選挙制度改革の一環としての重複立候補制度及び議員定数の見直しに関する質問主意書
参議院の選挙制度:選挙区制と比例代表制の併用
参議院でも選挙区制と比例代表制が併用されていますが、衆議院とは異なる形式です。
参議院の選挙区制
参議院の選挙区は、都道府県ごとに設けられた45選挙区で、各選挙区から定められた数の議員を選出します。人口の多い都道府県では複数の議員が選ばれる「大選挙区制」、人口の少ない県では1人の議員を選ぶ「小選挙区制」が採用されています。
選挙区制は、地方の代表を国政に送り出す役割が強く、地域ごとの声を反映させます。
参議院の比例代表制
参議院の比例代表選挙では、全国を1つの大きな選挙区として扱い、100議席が配分されます。この選挙では、政党ごとの名簿に加え、非拘束名簿式が採用されており、有権者は政党名または候補者名を選択して投票することができます。
候補者個人の得票数が多い場合、政党内の名簿順位にかかわらず当選することが可能です。
二つの選挙制度の併用の意義
日本では、小選挙区制と比例代表制の併用により、政治の安定性と多様性の両方を確保しようとしています。この併用によって以下の効果が得られます。
なお、現代のような普通選挙が実施されるまでの変遷を以下の記事でくわしく解説しています。
普通選挙法とは何か?その成立の背景と意義を徹底解説【加藤高明内閣と治安維持法との関係】
多様な意見の反映
比例代表制が導入されていることで、少数政党や新興政党も議席を得やすく、国会において多様な意見を反映しやすくなります。
政権の安定
小選挙区制では、得票率に対して比較的大きな議席を獲得することが可能であり、政権与党が安定的な議席を得やすくなります。
政権運営がスムーズに進みやすいという利点があります。
地域代表の確保
選挙区制では、地域ごとの代表が確実に確保されるため、地方の声を国政に届ける役割を担っています。特に参議院選挙において重要です。
候補者と政党のバランス
比例代表制では政党の影響が強くなり、小選挙区制では候補者個人のパフォーマンスや地元での影響力が重視されるため、政党政治と個人政治のバランスが取られます。
各制度を採用している国の事例紹介
選挙制度は国ごとに独自の工夫が加えられています。以下では、小選挙区制と比例代表制を採用している代表的な国を取り上げ、それぞれの特徴や選挙制度がどのように運用されているかを解説します。

小選挙区制の採用国
参考:
京都第一法律事務所「イギリスは変わるか~選挙制度改革調査旅行~」
内閣府男女共同参画局「政治分野 – 内閣府男女共同参画局」
イギリス
- 制度の特徴:
イギリスでは「単純小選挙区制 (First Past the Post)」が採用されています。各選挙区で最も多くの票を獲得した候補が当選する仕組みです。選挙区は人口を基準に分けられ、議会(下院)の650議席が争われます。 - メリットと効果:
- 地域代表性が高く、各地域の声が議会に反映されやすい。
- 過半数を得た政党が安定した政権を作りやすい。
- デメリット:
- 死票が多くなり、全体の民意が議席数に反映されにくい。
- 少数政党が議会に進出しにくい。
アメリカ合衆国
- 制度の特徴:
アメリカでも小選挙区制が採用されており、特に下院議員選挙で用いられます。435の選挙区に分かれ、それぞれの選挙区で最多得票者が当選します。 - 大統領選挙との違い:
アメリカの大統領選挙は「選挙人団」制度を採用しており、小選挙区制とは異なる仕組みです。しかし、州単位での「勝者総取り方式」が一部小選挙区制と似ています。 - メリットと効果:
- 地域ごとの代表性が確保される。
- 大政党に有利で、議会の迅速な運営につながる。
- デメリット:
- 都市部と農村部で票の価値に偏りが生じる可能性がある。
- 民意の多様性が十分に反映されない。
比例代表制の採用国
参考:
BBC「メルケル政権16年が終幕へ ドイツの選挙制度を解説」
公益財団法人ハイライフ「スウェーデンにおける市民社会と政治」
ドイツ
- 制度の特徴:
ドイツは「小選挙区比例代表併用制」を採用しており、完全な比例代表制ではありませんが、比例代表が重要な役割を果たしています。有権者は「小選挙区候補」と「政党名簿」の2票を投じます。 - メリットと効果:
- 小選挙区制の地域代表性と比例代表制の多様性の両方を組み合わせている。
- 小政党も議会に進出しやすく、多様な意見が反映される。
- デメリット:
- 政権が不安定になりやすい。
- 連立政権が一般的で、政策決定に時間がかかる。
スウェーデン
- 制度の特徴:
スウェーデンでは完全比例代表制が採用されており、政党が獲得した全体の得票率に応じて議席が配分されます。定数349議席のうち、310議席が選挙区ごとに、残り39議席が調整議席として使われます。 - メリットと効果:
- 民意が議席数に正確に反映される。
- 小政党も議会で発言権を得やすい。
- デメリット:
- 多党制の傾向が強くなり、政権運営が複雑化する。
- 選挙の結果、どの党も単独過半数を取れないことが多い。
まとめ
- 小選挙区制(イギリス・アメリカ): 地域代表性が高く、安定した政権運営につながる一方、少数意見が反映されにくい。
- 比例代表制(ドイツ・スウェーデン): 民意を正確に反映しやすいが、政権の安定性が課題となる。
比例代表制と選挙区制の違いに関するQ&A
Q1. 比例代表制と選挙区制の違いは何ですか?
A1.
- 比例代表制は、各政党が得た得票数に応じて議席を配分する制度です。少数派の意見も反映されやすく、議席数は得票数に比例します。
- 選挙区制は、特定の地域ごとに候補者を選出する制度です。例えば、衆議院の小選挙区制では、各選挙区で得票数が最も多い候補者が当選します。
Q2. 日本の衆議院選挙では、比例代表制と選挙区制をどのように併用していますか?
A2.
- 衆議院では、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた「小選挙区比例代表並立制」が採用されています。
- 小選挙区制:全国を289の選挙区に分け、各選挙区で1名を選出。
- 比例代表制:全国を11ブロックに分け、ブロックごとに得票数に応じて176議席を配分。
- 候補者は、選挙区と比例代表の両方に立候補する「重複立候補」も可能です。
Q3. 日本の参議院選挙では、比例代表制と選挙区制はどのように併用されていますか?
A3.
- 参議院では、選挙区制と比例代表制を採用していますが、仕組みが異なります。
- 選挙区制:都道府県単位で行われ、改選ごとに74議席が配分されます(1選挙区あたり1~6名選出)。
- 比例代表制:全国を1つの選挙区として行われ、48議席が配分されます。各党への投票と候補者名への投票が可能です(非拘束名簿式)。
Q4. 比例代表制と選挙区制を併用するメリットは何ですか?
A4.
- メリット
- 民意の多様性を反映:比例代表制により、少数派の意見も議会に反映されやすい。
- 地域代表の確保:選挙区制で、特定の地域の代表を選出できる。
- 安定性と多様性のバランス:大政党の安定した政権運営と小政党の意見を反映させる仕組みを両立できる。
Q5. 比例代表制と選挙区制にはどのような課題がありますか?
A5.
- 比例代表制の課題
- 候補者個人ではなく政党が重視されるため、有権者が候補者を選びにくい。
- 議席が分散しやすく、政局が不安定になる場合もある。
- 選挙区制の課題
- 勝者総取り方式のため、少数派の意見が議会に反映されにくい。
- 小選挙区では、大政党に有利になりやすい。
Q6. 比例代表制と選挙区制で、政治にどのような影響がありますか?
A6.
- 比例代表制は、少数政党が議席を獲得しやすく、多党制を促進します。その結果、政策議論が多様化します。
- 選挙区制は、大政党が議席を多く獲得しやすく、政権の安定化につながります。
- 日本のように併用することで、安定性と多様性のバランスを取る仕組みが形成されています。
まとめ
比例代表制と選挙区制の違いについて解説しました。
比例代表制は、政党への得票数に基づいて議席が割り当てられ、少数派の声が反映されやすいのに対し、選挙区制は地域ごとの代表を選出し、地域の利益が反映されやすい仕組みです。
日本では、衆議院と参議院でそれぞれ異なる比例代表制と選挙区制の併用が行われており、これによって政党と地域のバランスを取っています。
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